新太平洋覇権争奪戦

2008年7月21日(於淡水)
李登輝

摘要

  米国は中国を最大の潜在的脅威国と見なしており、一方の中国は米国の太平洋に於ける覇権を崩すための軍備を積極的に整えています。双方はいずれも守りの体制をとっていますが、互いに長期的脅威と見なしているため、実際に行動をすることにより、長期的脅威の抑制、或いは解消を図っています。これが即ち将来に於ける米中間の衝突をじわじわと作り出す温床となっており、衝突はもはや回避することはできない所にまで来ています。

分析

  二〇〇七年三月二日の「ワシントンポスト」紙は、海軍情報部(ONI)の情報を基に、中国海軍が五隻の新式戦略ミサイル原子力潜水艦と新鋭の攻撃型原子力潜水艦数隻を含めた大規模な建軍活動を推し進めていると報じました。

  具体的に言うと、この種の〇九四型次世代弾道ミサイル原子力潜水艦(SSBN)は、新しい巨浪二型ミサイルを搭載しており、射程距離は八〇〇〇kmにも及びます。中国はこうした現代化且つ強大な海軍核武器を擁することにより、牽制能力を持つと同時に、戦力を大幅に引き上げているのです。同情報はまた、『五隻の次世代弾道ミサイル原子力潜水艦は、中国に余裕綽綽(シャクシャク)とした海洋戦力をもたらし、ほぼ常駐しているに等しく、現在、数隻の潜水艦が試験航行を行っており、早ければ二〇〇八年にも第一次戦略配置が展開される』と述べています。

  この中国の原潜に関する報道は、米軍の中国の脅威に対する認識を反映したものと言うことができます。「ワシントンポスト」紙が米海軍情報処を消息筋としているということは、米海軍が意図的にメディアを通じ、中国の米国に対する脅威を自国の社会に伝えたことを意味しています。この点、昨年の一月に米空軍が定期刊行物を通じて、中国がミサイルを用いて、成功裏に衛星を撃ち落としたことを対外的に報じ、中国の軍事的脅威に対する米社会の関心をかき立てた手法と一致しています。

  昨年、二〇〇七年の一月十七日、米アビエーション・ウィーク&スペース・テクノロジー(Aviation Week & Space Technology)のウェブサイトには、米情報機関は中国の「風雲一号極軌道気象衛星が一月十一日に、近くの西昌宇宙センターが発射した反衛星システムにより破壊された」ことを信じていると記され、一月十八日、米国家安全会議のスポークスマン¦ゴードン・ジョントロー(Gordon Johondroe)はこの報道が確かなものであると発表し、中国の新たな軍事能力に対して関心を寄せていると述べていますが、これらは明らかに米空軍情報機関が米メディアへの意図的な情報提供を通して、米当局が当問題について大きな関心を寄せている態度を示すと同時に、米国が中国の動きを注意深く観察していることを中国側に知らしめるせるものであることが伺えます。

  これについて私は二つの点に注目したいと思います。第一に、中国は今正に宇宙戦争の能力を備えようとしている点。第二に、情報源は中国ではなく、米国自身がこの情報を公開した点です。(中国当局は一月二十三日にようやく事実を認めた)これらは決して偶然なことではありません。ブッシュ政権は中国が今何をしようとしているかを大衆に知らしめ、一方の中国はこれについて満足しています。中国は自国の努力を隠そうとはしておらず、米国も中国の軍事能力に対する国内の切迫感をかき立てようとしているのです。(米国の予算弁論の中で、この切迫感は最終的に米空軍に有利になるとした)以上のことは、現在の米国は中国をどう見ているのか。また中国は米国をどう見ているのかについて、極めて意義のある問題を提供してくれています。

根源の彼方

  一昨年、即ち二〇〇六年の五月、米国防省は「中国軍事力の年度レポート」を発表しました。レポートでは、中国が太平洋に於ける攻撃能力を急速に拡大させており、その攻撃能力は米海軍に対抗できる大規模な戦隊の創設によるものではなく、対艦ミサイル及び海上攻撃機の発展と配置(一部はロシアから)によるものであると指摘しています。レポートによると、中国は太平洋の遠い地点つまり、米海軍の重要基地の所在地であるマリアナ諸島やグアムなどを進攻する能力を急速に発展させているとしています。

  実際の所、中国の武力発展云々は、そのような中国の動きを深く信じているアメリカ人の態度に比べて、それほど重要ではないのです。二〇〇六年の中国軍事力に関するレポートは、アメリカ、ペンタゴンの見解のみならず、米情報機関などの見解をも反映しています。その結果、米政権では一つのコンセンサスが形成されました。そのコンセンサスとは、「中国が発展させているものは、防衛と威嚇牽制の目的を大きく超えたものであり、米の第七艦隊を攻撃する力を備えようとしている」というものです。こうしたコンセンサス及び二〇〇七年第一四半期に於ける米空軍と海軍が、それぞれメディアに中国の衛星攻撃と原潜戦力の発展の情報を提供した動きから、「中国は米国の脅威である」といった認識は、米軍事当局と情報機関の於いて既に定着しており、しかもますます深刻化していることを自ずと知ることが出来ます。

  この分析が正しければ、米国が関心を寄せる原因がはっきりしてきます。第二次世界大戦以来、米国は世界の海洋を支配してきました。同大戦により、日本とドイツの海軍は壊滅し、英国とフランスも世界の海洋を支配する充分な経済力はなく、政治的意志も欠乏していました。当時、ソ連は相対的に小規模な海軍を擁してはいましたが、主に沿岸の防衛に当たっていただけでした。唯一、世界規模の海軍を備えていたのが米国であり、その強大な軍事力にどの国の海軍または海軍連合も米国の海洋覇権に挑戦することはできなかったのです。

米国の戦略への関心

  米国が第二次世界大戦終結後に世界の海洋を単独支配した政治的現実は、一種の不可思議なかたちで、多くの国に当然のことのように認められていました。しかし、米海軍が単独支配するこのような状況は、人類史上、前代未聞のことであったことは事実です。米海軍はいつ何時、世界のどこにでも赴いて、攻撃をしかける能力はなかったものの、同国が多数の地域で開戦し、且つ反発されることのない力を備えていたことは確かです。

  こうした単純な事実は、米国は世界のすべての国を侵略することができるが、その他の国々は米国を侵略することはできないということを意味しています。米国が外国を侵略した結果がどうであろうと、イラク、コソボ、ソマリア、ペルシャ湾及びベトナムに於ける曾ての戦争を見る限り、米国は海上補給線やと交通路線を守る必要や心配は無用であり、思うがまゝに海上封鎖を行い、海戦を透した封鎖も必要としませんでした。米国が世界の海洋覇権を手にしたこの単一の事実が一九四五年以降の世界史を創りあげてきたといっても過言ではないでしょう。

ソ連の戦略をコピーか

  米国が世界の海洋を支配した事実は、一部の国に不安を抱かせ、且つ米国への対抗措置を促すことにもなりました。冷戦時代も然り、現代でも同じことです。

  冷戦時代、ソ連は米国が海権を支配する政治的意図を完全に把握していました。万が一、欧州で戦争が勃発した場合、大規模な後方支援兵力を送り込むため、米国は大西洋を横断しなければならないことをモスクワ当局は認識しており、もしソ連がこの補給・交通線を断つことができれば、欧州は孤立し、欧州に於ける戦争は、伝統的兵力で優位に立つソ連に軍配があがる可能性が大になります。このため、ソ連は海軍建設に野心を燃やし、大西洋に於いて米海軍に対抗し得る武力を確立しようと試みたこともありました。がしかし、海軍創設のコストは莫大なものであり、一方で中国と北大西洋条約機構(NATO/ナトー)の勢力から自国を防衛する陸軍を整備しながら、その一方で米海軍に対抗する艦隊の建設は、当時のソ連の経済力にとって、とうてい不可能なことでした。

  その代りの案として生まれたのが、空母を主力とする海上戦ではなく、攻撃型潜水艦と海上爆撃機を中心とした戦力の構築です。ソ連は対潜水艦弾道ミサイルを搭載したバックファイヤー(Backfire)爆撃機などにより、遠距離から米国の空母戦闘群を襲撃する戦略に切り替えたのです。ソ連当局は当時、大西洋を制覇できる海上戦略を発展させる必要はなく、大西洋における米海軍の動きを制することができれば、米国による増援の断絶と欧州を孤立させるという目的を達成することができると考えたのです。これに基づいてソ連軍が採った作戦とは、攻撃型潜水艦とバックファイヤーから発射する原子力ミサイルにより、グリーンランド・アイスランド・英国のチョークポイントであるGIUKギャップを突破し、大西洋の米艦隊と護衛艦を攻撃するというものでした。

  この対抗策として、米国は対潜水艦戦力とイージス(Aegis)級対ミサイル戦力を運用して反撃する戦略計画を採用。今日の視点に立って見れば、果たしてソ連が勝つのか、はたまた米国に軍配が上がるのかについては熱い議論を呼びそうですが、戦争は実際に起きていないため、双方の作戦計画はこれまで検証されていません。

  今日、中国も当時のソ連の戦略を採用しようとしています。ただ、少なくとも今後一世代、中国には米第七艦隊に対抗し得る海上艦隊を構築する力はないでしょう。これは予算や科学技術力の問題だけではなく、極めて複雑な規則を採り入れた中国の新しい海軍を如何に確立するかも問題になってくるからです。
 
  第二次世界大戦前、米海軍は既に空母戦闘群を運用した豊富な戦闘経験を有していますが、一方の中国は海上艦隊による実戦の経験はありません。
当時のソ連の戦略を採用するということは、中国が潜水艇および対艦ミサイルで米海軍に対抗することを意味します。言い換えれば、中国の戦略は西太平洋を制覇することではなく、迅速且つ鋭敏な地上配備型ミサイルと空中から発射するミサイルで米艦隊を攻撃し、米艦隊を西太平洋から退かせることを目的としているのです。

  この戦略は米国にとっては極めて頭の痛い問題です。艦隊一隻を威嚇するためのコストは、艦隊一隻を護衛するためのコストより遙かに低く、また迅速で鋭敏なミサイルを手に入れるためのコストは、ミサイル防衛システムを購入するためのコストを大きく下回るからです。米国は自国の艦隊を危険にさらしてはならないことはもとより、海権制覇は同国における大戦略の核心を成すものであると考えているため、中国が急速に対艦武器を取得している動きは、自らの国家利益の大きな脅威であるのです。この角度から見た時、米国と中国は今正に妥協を許さない地縁政治の競争を繰り広げようとしているのです。

最悪のシナリオを想定

  問題の最初に立ち返って見てみましょう。中国はなぜこの戦略を取り入れようとしているのか。それは「台湾と関係がある」というのが一般的な答えでしょう。中国が武力による台湾侵攻を図るならば、米軍の介入に直面するのは必至であり、中国はどうしても米軍を攻撃できる戦力を発展させなければならなくなります。

  しかし、一九九七年以降、中国は主な通商国家になりました。中国は外国から大量のエネルギー、食糧および原材料を輸入するとともに、世界各地域(特にアメリカ)に大量の製品を輸出しています。もちろん、中国はこの貿易を大変重要視しています。実際、中国は国際貿易を切望しているのですが、同時に、中国当局は自国の経済が海洋貿易に大きく依存し、更にこの海洋貿易は米海軍が完全支配する海域で行われていることをよく理解しています。

  この事実により、その他すべての国々と同じように、中国も排除せねばならぬ悪夢を抱えることになります。その悪夢とは、米国による海上封鎖です。中国の輸出は主に香港と上海など重要な港を通じて行われています。中国当局にしてみれば、米国人の行為は予測不可能なものです。米政府は深刻な政治問題に直面すると、真っ先に経済制裁に踏み切ることが多く、こうした制裁は米海軍による海上封鎖により強化されることが常です。南シナ海と東シナ海の海軍の軍力が不均衡であるため、米国は自らの意志によって中国に対する封鎖を行うことができるのです。

  現段階において、中国は米国が自分たち対しての封鎖を計画しているとは思っていないでしょう。しかし、これと同時に、こうした封鎖が中国に大きな打撃につがなることから、中国は「最良のシナリオを求めつつ、最悪のシナリオを想定」しながら戦略を練り、反封鎖の対策を考えざるを得なくなります。中国の軍事計画は、自国の国家の安全を他国(米国)の善意に任せることもできなければ、米国が今後も善意ある対中政策を採り続けると想定することもできないのです。このため、中国は米国による中国封鎖を威嚇阻止、防止するための手段を講じなければなりません。中国は米海軍に自国の海岸に接近させようとはしないはずです。このため、中国の戦争計画は明らかに中国海岸から離れた場所での接戦を想定し、中国人民解放軍を余裕ある時間の中で米海軍と対抗させようとするでしょう。

  中国がこうした能力を整備することは、台湾が中国人民解放軍による侵略の脅威を受けることを意味している訳ではありません。中国が台湾を侵略するために必要なのは、海洋拒否戦力(see-denial strategy)に必要な戦力だけではないのです。海を渡っての台湾侵略は、台湾海峡を越え、更に台湾の対艦システムの反撃に耐え得る水陸作戦能力が必要であり、しかも台湾のミサイル(巡航ミサイルや核弾頭ミサイルなど)を爆撃できる能力が必要です。このほか、海峡を挟んでの台湾侵攻には、台湾を出入りする船舶を攻撃する能力をも備え、台湾を完全に孤立させる目的を達成しなければなりません。しかし、中国には上陸戦が可能な水陸部隊が無く、台湾島での決戦に必要な多くの師団による支援戦力にも欠けているように見えます。

  つまり、中国はペンタゴンのレポートや米軍事情報機関が信じて止まない戦力を確立しつつあることは確かなのですが、中国のこのような動きが台湾だけに向けられたものとは限らないのです。現在の西太平洋における戦略態勢は、極めて経典戦争の戦略情況にあります。最悪のシナリオの戦略に則れば、中国は米海軍に対抗する海洋拒否戦力を整備し、これを自己防衛のためだと中国当局は解釈するでしょう。

  同じように、最悪のシナリオに基づいた場合、中国の現在の動きは、米国はこれを自国の根本的な利益-海権制覇を脅かすものと見なすはずです。また、同じようなシナリオに基づけば、米国は今後、自国の海権支配を守るための措置を採ることになり、それは中国にとって海上活動が脅かされ、根本的な国家利益が脅かされるものだと考えるでしょう。

  こうした昔ながらの状況は、いわゆる相互理解の範疇を超えています。これは双方の相互理解が不足しているが故の問題ではないのです。実際、双方は全体の状況をよく理解しています。現段階における相手の意図が如何なるものであっても、意図というものはいずれ変わります。長期的に見た場合、相手の意図ではなく、相手の能力に焦点を当てることが大切になってきます。

  このため、長期的には中国の動きと、その動きに対する米国の解釈を注意深く見守る必要があります。米国は中国の根本的な利益を脅かす力を有し、中国もまた米国の根本利益を脅かすことのできる能力を発展させています。能力こそがカギなのであり、双方の目下の主観的意図がどんなものであるかは全く重要ではないのです。両国の十年後の意図など、誰にも予測できないからです。

  ペンタゴンのレポートにもあったように、中国はロシアから先進武器と軍事的なハイテクを積極的に導入しています。ロシア軍は既に力を失ってしまっているかもしれませんが、その武器は依然として世界の先端を行っています。中国はロシアからミサイルと戦闘機/攻撃機の科学技術を取得しており、その量はますます多くなり、取得している技術もますます先進的になっています。これに対し、米国に対抗できるいかなるチャンスも見逃さないロシアは、引き続き中国が必要とするものを提供し続けていくでしょう。中国は中ロの軍事提携を中米貿易関係に響くような程までに強化しようとは思っていませんが、同時に貿易は貿易、国家完全は国家安全と、それぞれ別次元のものと考えているはずです。中国は米国に対抗するという綱渡りを始めたわけですが、現段階において、中国はこれまでやってきたことは全て正しいと考えているのです。

米国の防衛策:完全包囲

  米国の世界軍事戦略は、重大な戦略調整の段階に来ています。即ち「世界反テロ戦争」から九一一事件以前の「グローバル戦略」に戻ろうとしているのです。

  二〇〇一年一月、ドナルド・ラムズフェルド(Donald Henry Rumsfeld)は二つのカギとなる戦略観点を携え、米国防長官の座に就きました。一つ目の観点は、今後の米国における主要戦略のリスクが中国によるものであるということ。もう一つは中国からの挑戦、特に中国の西太平洋における米国の海洋覇権への挑戦とういうものでした。これに対して、米国が採ることのできる唯一の道は、科学技術であり、ハイテク武器の発展こそが米国の戦略のカギとなると考えていました。その後、九一一事件の発生により、ブッシュ政権が「世界反テロ戦争」を繰り広げたため、ラムズフェルドが提起した戦略見解と対応策は一時的に、棚上げの状態になっていました。
二〇〇六年二月、米国国防省は「四年ごとの国防計画見直し」(QDR)を発表しました。これは九一一事件後、初めて発表された四年ごとの国防計画の見直しであり、その中で中国は米国と競争する最大の潜在力を持つ国であることが強調されています。同年五月下旬、米国防省は二〇〇六年度の「中国軍事力に関するレポート」を発表。レポートは、目下中国は軍事の現代化を進めているが、これは台湾海峡有事の際に必要な軍事力の構築のみならず、長期的な考慮に基づく、世界を視野に入れた軍事能力を発展させていると指摘しました。こうした見解は、米国の世界海洋覇権における中国からの脅威に、米国防当局が大きな関心を寄せていることを表すものです。この二つのレポートは、ブッシュ政権が五年にわたる「世界反テロ戦争」の紆余曲折を経て、再び政権末期の戦略見解として採り入れられることになりました。中国は再び米国の最重要リスクとなり、これに対して米国が採ることのできる唯一の道は科学技術であり、この中には対潜水艦と対ミサイルの科学技術が主に含まれています。

  米中の覇権競争において、宇宙競争もこの覇権争奪戦のカギとなるでしょう。中国にとっての主な課題は、如何に長距離目標(米海軍艦艇)を撃破するかではなく、如何に遠距離の目標(米海軍艦艇)を見付けるかにあります。米海軍の艦艇の所在を探り、米軍を攻撃できるパラメータをミサイルに設定させるためには、宇宙をベースとした武器が極めて重要になってくるためです。一方の米国にとって重要なことは、如何にして相手の武器の威力を抑えるかであり、その前提には中国のミサイル、または爆撃機による攻撃であることを知らなければなりません。このため、宇宙をベースとした武器の偵察力が防衛全体の要となってきます。一言で言えば、海権制覇には柔軟的なミサイルと宇宙をベースとした科学情報システムが必要なのです。このため、中国は米国の衛星科学技術能力を阻止し、麻痺させ、更には破壊できる宇宙科学技術を積極的に手に入れようとするでしょう。

  注目に値すべきことは、これら全てにより、米国とムジャーヒディーン(聖戦士)間の戦いの動向が相対的に重要でなくなるということです。もし、米国防当局が、中国軍事力に関するレポートに書かれた見解を信じているとすれば、アフガニスタン、イラク或いはその他ムジャーヒディーン問題は、既に過去のものになったと言えるでしょう。「アルカイダ」(Al-Qaeda)はいかなるイスラム政権を転覆させることはできないし、ビンラディンの夢であったカリフ国家の再生という脅威ももはや存在しません。唯一、興味深いことは、イランがロシアや中国、或いはこの二つの国と同盟を結ぶ方向に転じるか否かということです。

平和の海に巻き起こる怒濤

  古い諺に「将軍達はいつでも戦争に臨む準備をしている」と言う言葉があります。古の知恵は常に正しいものです。現在米軍の間では、未来の戦争は非対称の戦争、テロリズムと反逆の乱戦になるとの考えが主流になっています。こうした戦争は当然のことながら存在するのです。ただ、中国当局は、ペンタゴンが本当にこれらが未来の戦争であると信じてはいないと見ています。現在の中国が西太平洋において米国の脅威になっている事実は、陸地をベースとしたイスラム帝国が米国の根本利益を揺るがすといった見解を取るに足らない問題にしてしまっているのです。

  米国は非対称戦争を通じて中国と太平洋との海権争奪戦を繰り広げることはできません。中国の米国に対する挑戦は、勢力均衡の国による挑戦であるからです。そしてこの相手は原子力武器を持ち、米国の海洋覇権に挑戦すべく、着々と準備を進めているのです。

  双方はいずれも守勢に回っており、互いに相手を長期的な脅威と見なし、実質的な行動により、このような脅威を抑制、ひいては解消を図っています。これが未来に於ける米中間の衝突の温床となっており、衝突はもはや回避することはできないでしょう。(完)