台湾海峡の平和とアジアの安全
The Heritage Foundation http://www.heritage.org/
2005.10.18
本日は、台湾が危急存亡に瀕していることをお話し、皆さんのご理解と支援を得ることで、この危機を脱する契機にしたいと考えている。
今年3月、中国で「台湾が独立への動きをすれば、武力行使する」という反国家分裂法が採択されたことにより、台湾では100万人の抗議デモが繰り広げられ、中国の武力行使による威嚇を非難する声が轟いた。
ところが、法案化に合わせるように、かつて反共を標榜していた野党の国民党の連主席、親民党の宋主席等が、相次いで大陸へ「友好の旅」に出た。この訪中によって、多くの台湾人の間に対中友好ムードが高まり、中国による武力行使の可能性はほとんど消失したかのようなムードが広がっている。しかし、これは幻想である。
中国は2008年以降の早い時期に台湾に奇襲(sudden attack)をかけるだろう。中国の戦略は何か? 中国の国是は台湾の「解放」であり、そうでない限り、中華人民共和国という国家は完成しない、と考えている。台湾「解放」は現在の共産党のトップの義務であり、これを達成しなければ、その地位を失うであろう。
中国経済は「世界の工場」といわれるほどまで成長したが、しかし、これは中国人自身の能力というより、外国企業が投資した工場の生産と輸出に依存している部分が大きい。かつ、アメリカなど先進国との貿易摩擦が発生しているが、結局、先進国の輸入力に依存しているからであり、中国経済はきわめて脆弱性が高い。
加えて、エネルギー・水不足、そして労働力不足(賃金上昇)までも出始め、富の不公平分配が暴動など社会不安をもたらし、経済の失速と社会秩序の崩壊の危機がしだいに近づいている。
同時に、排外民族主義が強まっている。中国には先進国に頭を押さえつけられているという鬱屈した感情がある。それを「解消」させるべく、排外主義的行動がしばしばおこる。留学生の殴打、国際スポーツ大会での外国人選手への暴力行為、外国大使館への投石などである。
しかも、政府はそれを抑えるのではなく、愛国心を強調することで、共産党へ向けられるべき不満を外国人に向かわせるように仕組んでいる。
共産主義体制の危機を回避させるために、中国共産党独裁政府は、オリンピックや万博によって、国威発揚を狙っている。そして、台湾「解放」を完全に統一された偉大な中国の最終的実現として、最大限に利用するつもりである。
中国軍部は武力攻撃の準備を着々と進めている。いつでも発射可能な 700以上にものぼる台湾対岸のミサイル基地、潜水艦や調査船による台湾周辺の海流や海底調査、中露共同軍事演習で実施された空挺部隊、水陸両用戦車などを中心とした海からの上陸作戦、さらには、台湾の軍用空港の実物大の複製を建設し、それをターゲットとした攻撃訓練などをしている。
中国軍部は台湾「解放」の国是にもとづき、攻撃準備をしているのであり、それが整い、「台湾攻略は成功する」と主張したとき、仮に共産党中央が反対であったとしても、「反分裂法」通過後は、それを退ける論拠はない。
綜合戦力では中国はアメリカには勝てない。だから、中国の現段階での台湾攻撃はありえないという見方がある。しかし、奇襲で短時間で台湾を制圧し、かつ戦域が台湾に限定される局地戦であれば勝てる、核戦争への発展の危険を考慮すれば、アメリカは台湾が攻撃されても、大陸への反撃は控えるだろう、と中国軍は考えるだろう。
中共側は台湾攻撃をより容易にするために、中共軍の軍備増強はいわれるほどのものではないと宣伝し、台湾側の軍備増強については、国民党や親民党を利用して、台湾海峡の緊張を高めることになると反対させている。
中共は経済面や人の交流面では寛容な素振りをみせ、いかにも友好的であるかのように振る舞うことで(台湾の国際組織への加盟などはあくまで妨害するが)、台湾人を油断させ、また世論の分断を画策している。
しかし、中共独裁政権下に入ることを望んでいる台湾人はいない。観念的には台湾は大中華文化圏の一部だとの意識を持っている人はいるが、台湾の自由・民主主義、高い生活水準という、より優れた快適な社会システムを大陸の独裁と人権抑圧がひどい遅れた不愉快な社会システムに置き換えたいと思っている台湾人はいない。
言語や文化の同一性によってのみで国家は形成されない。価値観と生活の基盤になっている土地に対する愛着心を共有することが一層大事である。アメリカに新天地を求めて移住したイギリスの清教徒は他の民族も含めて、別の新しい国家を作った。
台湾は事実上において主権を有した存在である。 ほとんどの台湾人はもはや充分な台湾人としてのアイデンティティを有している。
一般の台湾人は現実の中国は、経済取引の相手であるとしても、統一したい楽園ではないことを知っている。
台湾は事実上、独立主権の国家であるが、正式な外交関係や国際組織への参加、要人の交流などが中国によって妨害されている。しかし、これらの不当な扱いも国際社会の理解の深まりによって次第に解決していくだろう。
台湾は、まだ、さまざまに問題をかかえてはいるが、自由、民主、人権を守り、より一層高度化する努力を続けてきた。
政府指導者を民主的に選出している国とその国民が永久に国際社会から排除されていることは、自由・民主のシステムを世界に広げることを宣言しているこのアメリカ合衆国の国是にあわないのではないか? アメリカ政府と国民には台湾の立場をより一層理解し、支援してくれることをお願いしたい。
台湾が国際社会に受け入れられていくことは、中国をますますいらだたせることになり、台湾攻撃への衝動を一層抑えがたくさせる。開戦時期はオリンピック以後の早い時期とみられる。
オリンピックが成功すれば、中国人の自尊心と高揚感は最高度に達しているし、それまでには、現在、未だ完璧とはいえない中国軍の攻撃態勢も整うだろう。
さらに、近い将来日本が憲法を改正し、集団的自衛権を確立することは、ほぼ間違いない。年数がたてばたつほど、日本の防衛意識と台湾防衛能力(間接的な支援であるとしても)が高まるから、なるべく早い時期に決行しなければならないと考えるからである。
そして、それは奇襲(sudden attack)だろう。もちろん、香港方式による武力行使によらない併合が望ましいとは思っているだろうが、台湾側は共産主義の専制独裁的政治体制を受け入れるような譲歩はしないから、結局、武力行使しかない。武力行使を宣言してからやれば、アメリカ軍や台湾軍に準備の時間を与えてしまうことになるから、やはり奇襲しかない。
中国は奇襲で機先を制されたアメリカ軍が本格的に介入してくる前に、台湾を武力制圧し、台湾政権の転覆と統一を宣言してしまえば、戦闘はそこで終結できると読んでいる。
なぜなら、一般台湾民衆は、中共政権は嫌いであっても、抵抗による生命の損失や国土の破壊よりも、妥協による香港化を受け入れるだろうし、アメリカは、全面戦争は避けたいから、数年間の対中経済制裁はしても、結局中共の台湾統治を認めざるをえないだろう、と中共は考える。
2008年、国民党政権が成立している場合、中共はより有利な情勢が生まれたと思うだろう。なぜなら、国民党は観念的にはひとつの中国を掲げているから、中共軍が攻めてきた時、台湾側から見ても内政問題(内戦)となり、中共はアメリカの介入の不当性を主張しやすくなる。
残念ながら、今の国民党や親民党は大陸との経済交流による目先の利益に誘われ、中共の見せかけの友好戦術にはまり、台湾防衛をおろそかにし、自ら門を開いて中国軍の攻撃を誘うという道化の役割を演じている。
彼らは、単なる道化ではなく、中共に内通し、積極的に台湾に防衛力をつけさせないように画策している、と言う者もいる。
中国のこの攻撃を未然に防止するためには、我々台湾人と国際社会の皆さんがその可能性が高いことを認識して、攻撃に対する心構えをしっかり持ち、台湾政府に充分な防衛能力を確保させることで、中国側に軍事的冒険は必ず失敗するという“確信”を持たせることが必要である。
すべての人間は平和を希望している。しかし、希望だけでは平和は訪れない。これは過去の歴史である。我々は貴重な教訓を学ばなければならない。
平和志向の台湾が中国からの奇襲攻撃に面している危急存亡の瀬戸際にある現実を率直にお話しました。多くの人にこれを理解していただくことが、台湾とアジアの平和に貢献することにつながりますので、皆さんよろしくお願いします。どうもありがとう。